イギリスから春の便りとともにやってくる、伝統的な菓子パンであるホットクロスバン。
表面の十字模様が目を引くこのパンは、イースターの時期には欠かせない存在です。
ふんわりとした生地から漂うスパイスとドライフルーツの甘く芳醇な香りは、一口食べれば幸せな気分を運んでくれます。
温かい紅茶やコーヒーとの相性も抜群で、朝食やおやつにぴったり。
最近では、日本のベーカリーやカフェでも見かけるようになり、その人気は高まりつつあります。

ホットクロスバンの歴史
ホットクロスバンのルーツは、中世のイギリスにまで遡ると言われています。
複数の説が存在しますが、中でも有名なのは、14世紀にセント・オールバンズ修道院の修道士が、貧しい人々に分け与えたパンが起源だという説です。
当初はシンプルなスパイス入りのパンでしたが、時を経て、キリストの受難を象徴する十字架が刻まれるようになりました。
エリザベス1世の治世下では、ホットクロスバンはその特別な力から、特定の祝祭日以外での販売が禁止されたこともありました。
これは魔除けや幸運のお守りとして信じられていたため、その力を守るためだったと伝えられています。
現代ではイースターシーズンになると、イギリスをはじめ、多くの英語圏の国々で親しまれています。
特に、グッドフライデー(聖金曜日)には、家族や友人とホットクロスバンを分け合い、親睦を深める習慣があります。
近年では、伝統的なレシピにアレンジを加えた、チョコレートや柑橘系のピールを使った新しいフレーバーも登場し、その楽しみ方は広がりを見せています。
ホットクロスバンの特徴
ホットクロスバンの最も印象的な特徴は、パンの表面を飾る十字模様でしょう。
これは、小麦粉と水、あるいは牛乳などを混ぜて作ったペーストで描かれ、焼き上げられることで白く美しいコントラストを生み出します。
この十字は、キリスト教のシンボルであると同時に、春分を祝う古代の儀式に起源を持つという説もあります。
生地はブリオッシュほどリッチではなく、比較的シンプルな材料で作られます。
しかし、シナモン、ナツメグ、クローブといった数種類のスパイスが絶妙なバランスで加えられ、独特の芳香を放ちます。
さらに、レーズンやカレンツ(小粒の干しぶどう)、オレンジピールの砂糖漬けなどのドライフルーツが混ぜ込まれ、食感と甘さのハーモニーを生み出しています。
焼き立てをそのまま味わうのはもちろん、軽くトーストしてバターやジャムを添えるのもおすすめです。
温めることでスパイスの香りが一層際立ち、至福のひとときを味わえます。
ホットクロスバンの原材料
ホットクロスバンの主な原材料は以下のとおりです。
小麦粉 |
ドライイースト |
砂糖 |
塩 |
牛乳 |
卵 |
バター |
スパイス(シナモン、ナツメグ、クローブ、オールスパイスなど) |
ドライフルーツ(レーズン、カレンツ、オレンジピール、ドライチェリーなど) |
これらの材料を丁寧に混ぜ合わせ、発酵、成形、そして焼き上げの工程を経て、香り高いホットクロスバンが完成します。